図:除菌することによる胃がん再発の違い(加藤さん提供)

除菌することによる胃がん再発の違い(加藤さん提供)



治験症例数を集めるための工夫

加藤さんは、胃内部のピロリ菌を除菌することが胃がんの発生を抑制することを証明するための臨床試験で,十分な症例数を集めることに大変苦労したとのことです。この臨床試験を行うためには,薬を服用するグループと偽薬を服用するグループへ無作為により分ける必要があります*。

ピロリ菌の影響によって胃がんが発生することが浅香正博さん(現北海道大学病院長)などの研究によって明らかにされ,ピロリ菌除菌が胃がん発生を抑制することを証明できていない段階にも関わらず,除菌を求める人が増えました。そうなると,事前説明を行っても大多数の人が除菌を求め,無作為により分けることができない状況となってしまいました。

しかし,あるとき,加藤さんらはすでに胃がんになったことがある人たちに参加を呼びかけたところ,了承してくれる人が多いことに気づき,この人たちに被験者となってもらうようにお願いすることにして,臨床試験を行いました。その結果,十分な症例数を集めることができて,ピロリ菌除菌が胃がんの発生率を抑えることを証明することができたとのことです。

私たちが薬の効果を知るためには臨床試験によってそれを証明する必要があります。しかし,臨床試験には被験者の存在が欠かせません。被験者もまた人間なので,もしその行為を享受することで,自らの命を長らえることができるなら,そちらを積極的に受け入れたいと思うのが人間の心理というものです。加藤さんたちの事例は,臨床試験を行う上での難しさに立ち向かい,それを乗り越えたよい例だと思います(北海道大学病院ピロリ菌専門外来のウェブページ)。

* 人には,偽薬を処方しても薬だと信じ込むことによって何らかの体調の変化がみられることがある(プラシーボ効果)。そのため,効果や副作用が心理的効果によらず薬によるものであることを証明するために,臨床試験を行うときには,被験者及びそれを仲介する医師には,それが薬なのか偽薬なのかを分からないようにしている。


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