央銀行は過去20年間、金(ゴールド)の保有を好ましく思わない感情にとらわれてきた。欧州の中央銀行が地金を大量に売却する一方、アジアの中央銀行は主たる準備資産として金ではなく米国債を積み上げてきた。
その結果、中央銀行の準備資産の世界合計に占める金の割合は、昨年までに10.3%という記録的な低水準に落ち込んだ。1989年の32.7%から、実に3分の1以下に縮小したことになる。ところが今、状況が様変わりしたように見える。欧州の当局による売却ペースがかなり鈍った一方で、アジアの中央銀行がドルを売って金を買い始めたからだ。
この新しい傾向を如実に示したのが、インド準備銀行(中央銀行)による大量取得である。発表によれば、同行は国際通貨基金(IMF)から金200トンを67億ドルで買い取った。200トンと言えば、1年間に採掘される金の世界合計の約8%に相当する量だ。
「中央銀行は全般的に、金を準備資産として保有することを好意的に考えるようになっている。今回のインドの購入はその流れに沿ったものだ」。ロンドンの貴金属調査会社GFMSのニール・ミーダー調査担当ディレクターはそう語る
数カ月前には、中国が金の保有を増やしたことを明らかにしていた。中国は過去6年間で金の保有量を秘密裏にほぼ2倍に増やしており、今では世界第5位の金保有国になっているという。
貴金属トレーダーや銀行関係者らの話によれば、このほかにもロシア、ベネズエラ、メキシコ、フィリピンなどが少量ながら金を買っている。
HSBCの貴金属ストラテジスト、ジェーズ・スティール氏(在ニューヨーク)は次のように話している。「インドによる今回の動きは、公的セクターが保有資産の多様化を目指して金を購入するというトレンドを改めて裏づけるものであり、金相場にはプラス材料だ」
GFMSの推計によれば、公的セクターが過去20年間に放出した金の量(純減ベース)は年換算で400トン前後で、総供給量の約11%に相当する。
金の価格は、イングランド銀行が大量売却に踏み切った後の1999年、1トロイオンス=250ドルという23年ぶりの安値に落ち込んだ。ところが、今日では同1080ドルという記録的な高値をつけている。金市場は今、インドに続いてほかの中央銀行もIMFから金を購入する可能性が高いと読んでいる。バランスシートの強化を進めているIMFは、金をあと203トン売却する計画で、市場関係者は中国やサウジアラビアの中銀、あるいはペルシャ湾岸の政府系投資ファンドの1つがその一部か全部を買い取ると見ているのだ。中国やインドなどの中央銀行の準備資産に占める金の割合は約2~6%でしかなく、欧州諸国の平均値(ほぼ60%)を大幅に下回る。
金を世界で最も多く保有しているのは米連邦準備理事会(FRB)だ。米国は過去20年間、金を一度も売却しておらず、金の保有量は約8100トンと、準備資産全体の77%以上を占めている。
貴金属トレーダーらの話によれば、インド準備銀行による今回の動きにより、大口の――それも公的セクターによる――購入は、ドルの為替相場に「波風が立ったり」、金価格を過度に高い水準に押し上げたりするには至らないことが証明され、中国やサウジアラビアなど、外国為替市場への影響を懸念している国々にも金購入への道が開かれるという。
欧州では、以前に比べればはるかに遅いペースだが金の売却が続いている。今年9月までの1年間で欧州諸国の中央銀行が放出した金は155トンで、処分量を規制する中央銀行金売却協定(CBGA)が締結された1999年以降では最も少ない。
欧州中央銀行(ECB)市場操作部門の副ディレクター、ポール・メルシエ氏は今週、エジンバラで開かれたロンドン貴金属市場協会(LBMA)の年次会合で講演し、「ポートフォリオのリスク分散に資する要素として(金は)理にかなっている」と述べた。
メルシエ氏はさらに、次のようにつけ加えた。「たとえ一部の中央銀行が金の売却を続けるとしても、たとえIMFの中で新たな売り手が現れたとしても、私としては、(中央銀行による)金の保有が今後減少するという確信は持てない」
貴金属調査会社GFMSは、欧州諸国による売却ペースの鈍化とアジア諸国による購入とにより、今年の公的セクターによる純売却量は50トンにとどまると予想している。その通りになれば1988年以来の低水準となり、20年間続いた金の保有を好ましく思わない感情にもひとまず終止符が打たれることになる。